ピンクフロイド知らない

気になった音楽、PVの話

音楽を無料にしてはいけない、と叫ぶ人へ

www.youtube.com

ちょっとこれ見てくれ。

ライブハウス京都GROWLYの店長恭平さんが出してはる動画で、「Music FM」という音楽を無料で聞けてしまうアプリを取り上げて音楽に金を払ってくれ、という内容の動画です。
(先にこれだけは書いておきますが、Music FM自体は僕も無くなるべきものだと思っています。ただ、音楽が定額・無料で聞けることは必ずしも悪ではない、と思っているので感じたことを書いていきます。)

動画の内容的には

  • 今の若者は「基本無料」のものが身近にあるため、無料で音楽を聞くことに抵抗がない
  • その延長で「無料のモノになぜ金を払わなければならないのか」という考えが蔓延している
  • 「音」だけを聞いて楽しんでいるので、その裏で人が動いているということが想像できていない
  • だから、ライブに一度来てほしい!

いやー衝撃を受けました。
考え方太古か、と。
ただ、こういう考えで今音楽やっている人ってメチャクチャ多いと思うんですよ。
「俺たちが心血注いだ作品に金払えよ」みたいな考えの人。
めっちゃわかるんですよ気持ちは、僕もバンドやってたんで。

ツッコミたいところ

まずですね、 動画の中で「スマホのゲームとかアプリも今は無料でできるから、音楽も無料で聞くことが普通になっちゃってる」みたいな文脈の部分ありますよね?

じゃあなんで音楽は儲からないのにスマホゲームはそれで儲かるのか?
っていう話なんですよ。
これは言わずもがな、課金システムがあるからですよね。
※小さいアプリだと課金ではなく広告を表示して広告料で稼ぐタイプのもあります。

2018年に世界で一番売上を上げたゲームはFortniteというゲームですが、これもプレイは無料です。
課金システムも課金すれば強くなるとかではなく、キャラクターや武器の見た目を変える「スキン」と言われるアイテムを買うためにあります。非課金でもゲーム自体は他のプレイヤーと全く同じように遊べます。
それで、年間売上880億ドル(9兆6000億円)です。

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何が言いたいかというと「今の若者は無料に慣れているから金を出さない」というのは大間違いです

この「基本無料でアプリ内で課金するシステム」のことを「フリーミアム」といいますが、今開発されているアプリやサービスはほとんどがこの「フリーミアム」という形式を取ってます。

なぜ、フリーミアムが流行ったか。
儲かるからです。

フリーミアムはなぜ儲かるのか

僕が「課金」と聞いて一番最初に思い浮かべるのは「パズドラ」です。
もし、パズドラがシステムは全く同じ、ただし無料でなく「1000円」だったとしたら、今よりその1000円分売上があがっていたでしょうか。
勿論答えはNoです。

何故か。
「1000円かかるんだったらやらないわ」という人が出るから、すなわちユーザーの数が全く変わるからです。

ユーザーの数、という力

第1に人は周りの人がやっていることを自分がやっていないと不安になる、ということがあります。

Twitterinstagram、ツムツム、どうぶつの森ポケモンGO遊戯王デュエルリンクス、荒野行動...
友達みんなやってるし、やってみよ」と思って始めたアプリが1つぐらいありませんか?
特に今の世代はSNSによってつながりが強いため「周りの友達が何をやっているか」がほぼリアルタイムで共有されています。

結果的に、「基本無料」にしてユーザーを増やせば、それにつられて周りも始める。
更にその周りのユーザーも...という具合に雪だるま式に増えるわけですね。
勿論、広告等の他の戦略も重要ですが。

そして、第2にフリーミアムの課金率というのがあります。
このフリーミアム形式のユーザーのうち、課金しているユーザーはだいたい全体の2~5%だと言われています。
言い換えれば、ユーザーの95%は一切金になっていない、ということです。

従来の経済学の一般論ではパレートの法則と言って「2割のお得意様が売上の8割を支える」というのが定説ですが、フリーミアムでは偏った構造になっています。

そのため、分母が少ないと課金規模が小さすぎて成功しないため、とにかくユーザー数を増やすことが重要になってくるのです。
そのためには、使ってもらうためのハードルを極力下げる。
そして、100人中5人が課金してくれれば成功というわけ。

フリーミアム
とにかく試食させまくって、気に入った人がいっぱい買ってくれれば元が取れる」仕組みなわけです。

じゃあなぜバンドは儲からないのか

やっと帰ってきました。

まず始めにこれだけは言いたいですが、既に「楽曲」はフリーミアムで言うところの「無料部分」にほぼなっています。
じゃあ「課金部分」は何か。ライブとグッズですよね。

YouTubeやAppleMusic等の定額サービスで音楽を聞いて、気に入ったアーティストがいればライブに足を運んで金を落とす。
一見、フリーミアムのゲームと同じ形式になっているように見えますよね?

全く違います。

何が違うのか。

それは課金するハードルです。
今のバンド、特にインディーズバンドの場合ライブに来てもらわないとほとんどのお客さんがお金に繋がりませんよね?

アプリで課金する時は画面上で数タップするだけで課金できるのに比べると「ライブに行く」というのはかなりハードルが上がります。

「交通費がかかる」「予定を空けなきゃいけない」「遠いから行くのにも時間がかかる」
相当好きな人でないとライブは行きません

「AKBを聞いてる人」と「AKBのライブにも行く人」は後者の方が熱心なファンですよね?
「千鳥の漫才が好きな人」の中に「千鳥のライブに行く人」がどれだけいますか。
恭平さんの動画では最後に「まずはライブに足を運んでください!」と言ってますが完全に順番が逆です。YoutubeでいくらでもLive映像が出てくるこのご時世に「まずライブに行く」人なんてなかなかいません。

儲からない理由はまだあります。

先に説明したパズドラなどのゲームの場合、一部のユーザーが数百万単位で課金する場合があります。
この大口顧客の存在によって、他の数千人が課金していなくても黒字になるわけです。

でも、バンドの場合CD、Tシャツ、チケット代を出してくれれば
もの凄い上客だと思いますが1万いかないぐらい。
「今月の全ライブに来てくれた」としても、チケット売上は3万にもならないと思います。

客単価が低いんですよね。
「課金効率が悪い上に客単価が低い」

更にまだあります。

上で「相当好きな人でないとライブには行かない」と書きました。
これは「曲を聞いて良いなと思った人」を「ライブに行きたい」と思わせる必要があるわけですが、その「更に後押ししてくれるコンテンツが少なすぎる」というのも問題です。

マーケティングでは商品を買ったことがある、知っている顧客を一般顧客、リピートしてくれている顧客のことを優良顧客と呼んだりします。
「知らない人に知ってもらう」のと同じぐらいこの一般顧客をいかに優良顧客に昇格させるかが重要なわけですが、ほとんどのバンドの場合、ライブに行くまでは「曲を聞いてもらう」以外のアプローチがほぼ無い状態。

それではいつまでたっても「曲が良いなと思った人」は「ライブに行きたい人」になってくれません。

僕はバンドマンの人に聞きたいわけですが、ここ1年で純粋にネットで音源を聞いて感動してライブに行ったお気に入りのバンドがいますか?

じゃあどうすんねんカス

僕も自分なりにサラリーマンパワーを結集して考えました。

1. ライブハウスを全ての中心にするのを辞めろ

正直言いたいことのほとんどはこれです。
そもそも論として問いたいのは
なんのためにライブをしているのか」です。

自主企画やワンマンライブは置いておいて、 「なぜ毎月継続的にライブしているのか」ということ。

恐らくほとんどのバンドの答えは 「自分たちをより多くの人に知ってもらうため」、もっと言うと「ファンを増やすため」だと思います。

1人でも多くの人に自分たちの曲を聞いてもらって、気に入ってくれた人はCDを買って次のライブにも来て欲しい。当然ですよね。

でも、ここで考えていただきたいのですが「自分たちのバンド、曲を1人でも多くの人に知ってもらう」 という目的に対して、本当に「ライブハウスでライブをする」のが最善でしょうか?

僕はほとんどのバンドは配信ライブをすべきだと思っています。
それもライブハウスでのライブを配信する必要はなく、スタジオで演奏している様子をライブとしてYoutube Liveやらで配信すればいい。

そもそもライブというのはバンド側にとっても非常に負担が大きい。 特に毎回ノルマを課せられているバンドは借金を背負わされているようなもんです。

それで来たお客さんが3人とかザラですよね。
「何のためにライブやってるんだろう」って思ったことありませんか?
「ライブをします」って言って客が来ないってことは需要がないってことなんですよ。だったら需要を作る活動をしないといけないのに、ひたすら金払ってライブするのは本当に無駄な行動です。

寿司屋の修行と一緒で、バンドも「下積みをして花開くべきだ」みたいな古臭い空気が未だにありますが、「みなさんはもっとラクするべきだし、もっと正当に評価されるべき」だと思っておるわけです。

配信ライブをしてくれ!!

配信ライブをすると、お客さん側も好きな場所、タイミングで見られるし、バンド側もスタジオ代だけでいいわけですから負担が大きく軽減されてwin-winです。

でもそれだといつまでたっても売上にならねえじゃねえか」と思った方がいらっしゃるかもしれません。 現代の配信サイトのほとんどには「投げ銭」と言われるシステムがあり、視聴者が感動した時や良いなと思った時にお金を投げることができます。だいたいが100円ぐらいから投げられます。

CDも買わないのに、ただ金を投げるだけのやつがいるわけねえだろチンカスwww」私も最初はそう思っていました。

視聴者が投げ銭をする大きな要因は、配信者に自分を認知してもらえることです
投げ銭をすると「Aさんが100円投げました」とデカデカと表示されるため、だいたい配信者が「Aさんありがとー!」とお礼を言います。
これによって、Aさんは配信者に自分を認知してもらったという感覚を得ます。
これは「他の銭を投げていない視聴者と違って私は認められている」という優越感です。

更に、投げ銭の金額が多いほど長時間画面に表示される仕組みになっているため、例えば1万円投げれば相当な時間あなたの名前が配信画面に表示され続けます。コメント欄でも「1万円凄えw」などと褒められまくって優越感の海に浮かべるわけです。

そもそも、ゲームでは「数百万、数千万円単位で課金する大口顧客」というのが存在しますが、これはなぜかというと「ユーザー同士を競わせるから」だと思います。 ユーザー同士の状況が見えることによって「人より高いランクになりたい」「みんなが持っていないレアアイテムが欲しい」という欲求が生まれ、それを達成した時にとてつもない優越感を感じるわけです。その優越感にお金を払っているんですよ。
いきなりステーキの「肉マイレージ」とかも同じ原理ですよね。

少し話はそれましたが、配信ライブをして良いライブができればチケット代2500円のライブを見に行くのは億劫だけど300円なら投げよう、と思ってくれる人が必ずいるはずです。
そういう活動を重ねることで、「曲を聞いて良いなと思った人」を少しずつライブ会場に近づけるわけです。
そして「ライブにある程度の人が来てくれそうだな」と手応えを感じた時点でライブをやればいいじゃないですか。年に20本も30本もやる必要無いと思うんですよね。

でも配信は自分達のフォロワーばっかりが見ることになるから一向に客層が広がらないよね?」と思った人もいるかもしれません。
答えは簡単で「対バン形式での配信」をやればいいだけのことです。
バンド同士で声を掛け合って、順番に演奏する様子を各バンドが一斉に配信すればいいですよね。そうすれば、対バンのフォロワーにも自分達の音楽を聞いてもらえるきっかけになります。
これもスタジオでやればいいので、浮いたお金で打ち上げでも行ってください。

2.ライブにプレミア感を出す

これも上の優越感の話に似ていますが、折角ライブに来てくれたお客さんは離さないようにもっと優遇すべきだと思っています。
たまに「ポイントカード」みたいなのを導入しているバンドを見ますが、これは非常に良い取り組みだなと思います。

ただ、ポイントカードを作るなら「遠くから遠征してきた人にはより多くのポイントをあげる」べきだと思いますし、ポイントを貯めて交換できるのがTシャツとかのグッズだと僕は「んー」ってなっちゃいます。

モノが欲しくてライブに行ってるわけではなくて(それも目的のひとつかもしれませんが)、「皆さんのことが好きだから」ライブに行くわけですよね。だったら、景品も皆さんにした方が良いと思うんですよね

別にやらしい意味じゃないですよ。

例えば僕だったら「5回ライブに行ったら、好きな1曲のベースを本人に30分レッスンしてもらえる」とかだとめっちゃライブ行きますね。
バンドをやっていない人だとどういうのが良いか具体的にはわかりませんが、きっと同じような願望があると思います。

なんというか、「自分を特別扱いして欲しい」ってことですよ。
結局優越感ですね。  

まあ、やりすぎると色恋沙汰で揉めるバンドマンも少なからず出てきそうですがそこは上手くやってください。(鷹の目)

3.キャラを知ってもらう

バンドに限らず選手や芸能人を好きになる時って技術や成績だけじゃなくて「その人の人間性も含めて」好きになると思うんですよ。

明石家さんまがプライベートでもめっちゃ愛想良くて好きになった」とか「イチローの異常なまでにストイックなところに憧れる」とか「BUMPの藤くんの隠キャなとこが良い」とか誰でもあると思います。

個人的な話をするとtricotがまだ出始めの頃、Youtubeによく「tricot TV」みたいな動画が上がってたんですがそれがめっちゃくちゃ面白いわけです。音楽と全然関係ないショートコントみたいなのもありました。
僕はそれを見て「こいつらのライブ絶対おもろいやん」と思って見に行った記憶があります。
実際、どういう人か事前にわかっているとライブに行きやすいですし、「MCも楽しく見られる」というのはあります。 勿論、曲を気に入ってもらえないと始まりませんが。

何が言いたいかと言うと「曲ではなくバンドのことを好きになって欲しいなら音楽だけでなく人間性が伝わる何かを作って欲しい」ということです。そしてそのバンドのことについて詳しく知っているほどライブを更に楽しめる、ということです。

最後に

僕はバンドマンを煽りたいわけではなくて「バンドマンは何かと遠回りし過ぎだ」ということを言いたいんです。もっとラクができる世の中になったぞと。
僕も典型的なバンド活動を経験しましたが、バンドを辞めて社会人になってから「あの世界は異常だったな」と思います。

この内容がダサいと思ってる人もきっといると思います。そういう人は今まで通りにしてくれればいいです。 僕は今燻っているバンドや、これから出てくるバンドが1つでも多く報われてくれれば嬉しいです。

追記:
この考えに至った原因である「音楽の価値が下がった」ということについても、考えを書きましたので、まだ体力が残っている方は良ければ読んで下さい。

tadokoro.hateblo.jp